缶詰牧場。

「おーい!おーい!逆さまになるぞー!」

牛飼いの大きな声が、広い草原に響き渡る。

それを聞いた牛たちは一斉に声を上げ、逆さま に備えて牛小屋に戻る。

その町では週に何度か 逆さま と呼ばれる現象が起こる。

天地が逆さまにひっくり返り、しばらくすると元に戻る。

逆さま が起こるのは日常茶飯事なので、町の人々が不思議に思うことはない。

その町ができたときから、ずっと、続いていることだから、一々気に留めない。

それ相応の心持ちでそれぞれを生きている。

その町にひとつある、大きな牧場の牛たちだけが、いつも牛飼いの声で はっ とし慌てて大移動する。

生い茂る深い緑を風が撫でていく、気持ちの良い日和に限って 逆さま が起こるんだから、牛たちはうんざりしている。

 

 

 

「おーい!逆さまになるぞー!おーい!」

また今日も 逆さま が起こる。

空と地面が大きく音をたてて逆さまになっていく。

遠くの空で、子どもの笑い声が聞こえる。

「今日の 逆さま は長くなりそうだな。」

牛飼いはため息をつきながら、急いで牛小屋に牛を納める。

自分勝手な人間どものせいで、心地よい日和も牛たちも迷惑を被っている。

 

 

 

子どもたちは楽しそうにその缶詰を 逆さま にする。

なんの事情も知らない無邪気な子どもの笑い声が、穏やかな昼下がりの部屋に響く。

逆さまになった缶詰は、今日もモーモー鳴いている。