「あたし達ねぇ、もうずっとここで働いてんだけど、あんたみたいな子はじめてよ。」 「ね?あんたもそう思うわよね?あたしもそう思ってたところよ。」 双子の姉妹だろうか。顔立ちも体つきもよく似た、お世辞にも美人とはいえない女2人が、接待をしながら私…
そのおじさんは、前髪しか生えていない。 おでこを隠すように綺麗に眉の上で揃った、短めの髪。 細胞の芯まで整って、黒く光る髪。 その美しい髪は、なぜか前頭部にしか生えていない。 そのおじさんは、歩くのが早い。 歩幅が大きく、早足で歩く。 昔から足…
お母さん、どうしてそんなにきげんがわるいの? わたしがわるいこだから? お母さん、へやがまっくらだよ。 お母さん、こえがおおきいよ。 なみだがでちゃってごめんなさい。 いいこにしていたいんだけど、 どうしたらいいかわからないんだ。 どうしたらよろ…
「おーい!おーい!逆さまになるぞー!」 牛飼いの大きな声が、広い草原に響き渡る。 それを聞いた牛たちは一斉に声を上げ、逆さま に備えて牛小屋に戻る。 その町では週に何度か 逆さま と呼ばれる現象が起こる。 天地が逆さまにひっくり返り、しばらくする…
夜明けが嫌いな理由は、今日という日が死んでいく瞬間を目の当たりにしているようだから。 真っ黒で草も虫も鳥も鳴かないような静けさの午前3時を過ぎた頃から、少しずつ少しずつ白んでいく空。 ふたりの あるいはひとりの秘密ごとを隠してくれるような、内…
薄茶色のグラデーションがかかった銀色の縁の眼鏡、真っ黒な髪にパンチパーマをあてた髭面の男。 あぐらをかいて偉そうに怒鳴り声を上げる。 「おい、飯だ!飯を持ってこい!」 すると台所から絹糸のように細くて優しい品のある声。 「はーい!只今!」 真っ…
旅に出たいなぁ。 日帰り温泉とか、一泊弾丸旅も好きだけど、 現実をすぽーんと忘れるくらいの旅がしたい。 今までの旅で忘れられない宿の話をひとつ。 スリランカにある、有名な建築家ジェフリー・バワのホテル、ヘリタンス カンダラマに泊まったときのお話…
風のない夜に、ひとりで歩くのがすき。 耳鳴りがしそうなくらい、しんと静まり返った空気と、誰もいない真っ暗な道。 街灯のあかりを縫うようにぽつぽつ歩いて、自分だけの世界に浸る。 風の抵抗がないと、からだが重いような軽いような気持ちになって、わた…
わたしにはやりたいことがたくさんある。 昔から悩みごとの根っこはいつもそこにある。 そして、自分で言うのもなんだけど、なんでもそこそこレベルまではすんなり進める。 はたから見たら、なんでも挑戦できるとか才能があってすごい。と感じるみたいだけど…