手のひらの男女。

薄茶色のグラデーションがかかった銀色の縁の眼鏡、真っ黒な髪にパンチパーマをあてた髭面の男。

あぐらをかいて偉そうに怒鳴り声を上げる。

「おい、飯だ!飯を持ってこい!」

すると台所から絹糸のように細くて優しい品のある声。

「はーい!只今!」

真っ白なレース飾りのエプロンを纏い、声の通り品のある、振り向いた瞬間の残像さえも輝くような端麗な女。

今にも殴りかかってきそうな男の剣幕に、その女は全く動じない。

「お待たせして、ごめんなさいね」

そう言って、食卓にすっと差し出したのは金色の鎖。

頭上の白熱灯の明かりを受けて鈍く光る、金色の鎖。

男は、実に美味いと言いながらその鎖を喉に流す。

女は、それを見て嬉しそうに微笑む。

男が夢中で流し込む鎖のしゃりしゃりという金属音と、女の屈託のない微笑みで、食卓は一瞬、円満に綻んだ。

 

数分後、男は悶え苦しみ息絶えた。

女は食卓に残された金色の鎖を、天秤に乗せるようにゆっくりとしなやかに、手のなかに納めた。